大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1556号 判決 1980年10月30日

控訴人 橋本金属株式会社

右代表者代表取締役 橋本豊造

被控訴人 鈴木志津子

右訴訟代理人弁護士 児玉勇二

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人を債権者、被控訴人を債務者とする東京地方裁判所昭和五五年(ヨ)第一〇八二号債権仮差押申請事件について、同裁判所が昭和五五年二月二〇日にした仮差押決定を認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、原判決摘示事実と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決二枚目裏三行目の「右債権の内金」を「右債権の元金の内金」と訂正する。)。

理由

保全訴訟も私法上の権利の保護手段の一として認められているものであるから、保全処分申請については、いわゆる権利保護の必要が具備されていることを要するのであり、したがって、債権者が被保全権利につきすでに同種の保全処分命令を得ている場合のごときは、保全処分申請は、権利保護の必要を欠くものとして、排斥を免れないというべきである。

これを本件についてみるに、控訴人の本件仮差押申請は、被控訴人に対する貸金八九二万五、〇〇〇円の残元金の内金一〇〇万円を被保全権利とし、被控訴人が大森簡易裁判所昭和五二年(サ)第一二六九号不動産競売手続停止決定事件について供託した六〇〇万円(東京法務局(金)第一三四二八二号)中の一〇〇万円の取戻請求権を仮りに差し押さえる旨の決定を求めるものである。ところが、記録によれば、先に、控訴人は、被控訴人を相手どって東京地方裁判所に対し前記貸金及び遅延損害金の残額四九九万〇、八四六円の債権を被保全権利として、前記六〇〇万円の取戻請求権のうち右被保全権利の額に充つるまでの分の仮差押を申請したが(同裁判所昭和五二年(ヨ)第九四七〇号事件。以下「前事件」という。)、右申請を却下されたので、東京高等裁判所に対し抗告を申し立て(同裁判所昭和五三年(ラ)第四七二号事件)、昭和五三年八月三一日被保全債権額と同額の担保を供することを条件とする仮差押決定を得たが、担保を供して仮差押の執行手続をとることをしないまま、本件仮差押申請に及んだこと、前事件の被保全権利である前記貸金元利金残額の中には、すくなくとも本件仮差押申請の被保全権利である一〇〇万円の貸金元金に相当する額が含まれていることを認めることができる。してみれば、控訴人は、同一の請求権の執行を保全するためと称して、前事件の仮差押決定を得ていながら、再度本件仮差押申請に及んだものであり、右申請は、明らかに権利保護の必要を欠くものといわなければならない。

なお、記録によれば、前記六〇〇万円の供託金のうち五〇〇万円について担保取消決定がされ、被控訴人が五〇〇万円を取り戻したことが認められるが、これとても控訴人が担保取消に同意したものとみなされた結果として担保取消決定がされ、これに基づいて被控訴人が取戻請求権を行使したものであって、右供託金一部取戻の事実があったからといって、本件仮差押申請が権利保護の必要を具備したものとみることは当らない。

以上の次第であるから、本件仮差押申請は不適法であるとして、本件仮差押決定を取り消し、右申請を却下した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 蕪山厳 安國種彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例